20TH SPECIAL INTERVIEW ヘルツのあゆみとこれからのこと
クライアントがヘルツにどういうことを求めているか、それを察知し、ほどよい距離感で寄り添える会社でありたい
株式会社ヘルツ 代表取締役 山崎 正宏
クライアントがヘルツにどういうことを求めているか、それを察知し、ほどよい距離感で寄り添える会社でありたい
株式会社ヘルツ 代表取締役 山崎 正宏
私が前職でウェブ制作の仕事を始めた1995年は「Windows 95」が登場し、家庭にもパソコンが普及し、インターネットというものが爆発的に知られていくころです。当時、周りにはWeb制作の仕事をやっている人も少なくて、広告業界だけでなく、システム開発の業界にさえ、Webサイトをビジネスに活用することは理解されませんでした。
Webの可能性を感じて創業した1998年。地方では、既存メディアの制作会社が、新規事業としてウェブを始めたとかという話はチラホラ聞きましたが、Web専門のプロダクションは、ほとんどなかったように思います。
東京ならまだしも、地方で「Web専門で起業する」と言ったら、本気で心配された時代です。そのころはまだ大企業でもWebサイトの使い方を模索していましたから無理もないですが。
創業当時、地方ではデザインからコーディングまで1人で完結する制作フローが、ごく一般的でした。その頃「東京では普通に分業しているらしい」という噂が聞こえてきたんです。地方では、そんな考え方は、まったくない時代です。漠然と「東京では全く違うレベルのことをしているんじゃないか」という憧れよりも恐れに似た感情を持っていたのを覚えています。東京進出という目標を持ったのもそのタイミングです。
東京進出を見据えて、自治体・金融機関・公共インフラ・放送局など、地元でも比較的大きな案件を中心に受注していきました。その頃はまだ競争相手も少なく、Web専門のプロダクションが珍しかったこともあり、比較的スムーズに受注できたように思います。今だから言えますが、当時の携帯3キャリア全ての公式サイトの制作も担当していた時期もあったくらいです。
そうして作った実績を持って3年目、東京(渋谷区恵比寿)に事務所を持つことになりました。いま考えると、ちょっと恥ずかしいですが、東京事務所が渋谷区にあるということが、IT系のビジネスをする上で、まだインパクトがあった時代でした。
地方での実績を見て、東京でも大手企業の案件をいただけるようになりました。
その大手企業とは10年以上取引が続くことになるのですが、お茶の間でCMが流れるような、誰もが知っている全国区の企業や商品のサイトを手がけていることは、地方での信頼をより強固なものとし、地方と東京それぞれの実績が好スパイラルを生むようになっていきました。
そうなると、お客さんだけじゃなくてスタッフの意識も変わってきます。リビングで家族に言える仕事をすることは、モチベーションを維持する要因として重要なことなんだと、身をもって気付かされました。
もちろん、求められるクオリティや技術、スピード感の違いに、大変な思いもしてきました。それを乗り越えてくれたスタッフたちに心から感謝しています。
最近ではウェブのビジネス活用も定着してきて、企業もビジネスを成功させるために率先してウェブに関する知識を得ている時代です。かつて「ウェブのことだったら、とりあえずウェブ制作会社に相談すればいい」という時代もありましたが、もう昔の話です。
そんな時代に、私たちウェブ制作会社が、どの領域を守備範囲とするのかは難しい課題です。
クライアント側も、ウェブ制作会社の守備範囲を見極めようとしているタイミングですので、そこは強く意識して継続的に情報発信していく必要があります。
時流に合わせて幅広い知識をつけていくことは必要ですが、ゼネラリストだけどスペシャリストじゃない、というのでは高度になったクライアントの期待に応えることはできません。
スタッフにも、自分たちが得意な軸を認識した上で、軸の周りをどう肉付けしていくかの意識が重要だと日々伝えています。
クライアントにはクライアントのカタチがあって、相手が〇なのに、こっちが△だと角が立ってしまいますよね。
企業の姿勢で「合う」「合わない」っていうのは確実にあって、完全にクライアントに委ねるわけではなくて、自己主張もするけど、近いカタチでクライアントにうちの意見も入れながら提案をしていく。そうやって、うちがどういうカタチでフィットしていくかを考えていく方が大事じゃないかなと思っています。
ものごとには歴史があります。もちろんウェブも歴史を学ばないで始めたプロジェクトはことごとくダメになっている気がします。例えば…地域情報系のウェブサイトは3年ぐらいの周期ぐらいで世に出ていますが、残念ながら過去の失敗の歴史を活かせていないものが多く見受けられます。過去には先駆者がいて、成功も失敗も学べるはずですが、思いつきだけで始めたものがあまりに多いと感じます。
ウェブのトレンドは目まぐるしく変わりますが、本質的に変わらないものもあります。
これまでの経緯があって、今がある。これをちゃんと分かっていれば、また次に繋がります。
ヘルツでも過去にはいくつかの失敗を経験しましたが、それを乗り越えてきました。
そして今は過去の失敗を踏まえた上で、20年の経験やノウハウの蓄積があるのが大きな強みとなっています。
だいたいの人は1~3年目は急激に伸びます。でも3年目以降ぐらいから現場の仕事を任され出すと、とたんに成長曲線が鈍くなりがちです。
「現状維持でいいか…」ってなってしまうと、技術の進歩や業界のトレンドはどんどん上がっていくので、相対的に見ると落ちていくことになる。
ウェブ業界では、学んだことが2~3年で全く使えない技術になってしまうことがありえます。3年目から徐々に落ちていくのか、さらにもう一段階上るのか、ターニングポイントが訪れます。
そこで「学習習慣」があるかないかは大きな違いになってきます。学習し続けるのは苦しいですけど、ウェブ業界で食べていこうと思うなら、とても大事なことです。
遅かれ早かれ制作だけをやっていればいい時代は終わります。クライアントにどういったアドバイスができるか、戦略や戦術を含めた提案ができるか、お客さまのビジネスにどう寄り添えるか、それができない人はウェブ制作の業界では生き残れないでしょう。
そういった意味でも、今後どのようにクライアントとコミュニケーションがとれるかは、重要な要素となってきます。
2014年、ヘルツ高松本社ではセミナールームを併設しました。
セミナーで使用していない時には、社内ミーティングや、勉強会、ワークショップなど積極的に活用しています。
セミナールームを作った目的としては、「地元香川県における、ウェブ業界の底上げに寄与したい」という想いもありましたが、一番の目的は、スタッフにセミナー、勉強会、発表、プレゼンなどを身近に感じてもらうことにありました。なぜなら、それこそがクライアントのビジネスに貢献する近道となると思ったからです。
昨今、クライアントは戦略を求めてきています。どういう戦略をとれば勝てるのか、を求めている。
まだ今の段階では、戦術を求められることが多いですが、今後はビジネス全体を見る力、グランドデザインを描く力が必要なってきます。
それはすぐではないかもしれませんが、いずれ訪れるであろうその時のために、スタッフには今のうちに対話力をしっかりつけてもらいたいと願っています。
クライアントの要望をヒアリングでしっかりと読み取り、戦略・立案に活かせるようになることで、初めてクライアントのビジネスに貢献できるようになるのではないかと思います。
山崎 正宏
株式会社ヘルツ 代表取締役
1972年石川県羽咋市生まれ。
大学にてメカトロニクスを専攻し大手空調設備会社に就職するも3ヶ月で退職。広告制作を行うクリエイティブオフィスに入社。
写真製版・DTP・書籍出版・CD-ROMコンテンツ制作・ウェブ制作など様々な広告制作に携わり、1998年独立。ウェブ専門の制作プロダクション「hertz(ヘルツ)」を設立。2001年より東京事務所を開設し2拠点での活動をスタート。
2009年から地域のWeb制作者のコミュニティ「Webridge Kagawa(ウェブリッジ・カガワ)」にてCSS Nite in TAKAMATSUなど各種セミナーイベントやワークショップを開催し、地方のウェブ制作者の技術力アップや意識改革から地位向上につなげる活動を継続している。